都筑区佐江戸町25にある「横浜市環境創造局都筑水再生センター」を、3人で訪問してきた。正門を入ると、落葉しはじめた木々が迎えてくれた。「ここが都筑区か」と戸惑うほど閑静な所にある。都筑水再生センターが「佐江戸の森」と呼ばれているのも、うなずける。 正門左手に、古びた下水管(左)がおいてあった。説明には「1884(明治17)年に外国人居留地に敷設されたレンガ下水管の一部。1992年に中華街で発見」とある。 高度処理設備を誇る水再生センターで、横浜初期の下水管を見られるとは思っていなかっただけに、得をした気分である。
本館(左)で、管理担当の小山さんと水谷さんが対応してくださった。今回の取材が質の高いものになったのは、本音で語ってくれたお2人のおかげである。 横浜には18の行政区とは別に、都筑処理区・港北処理区など9つの水の処理区がある。同じ処理区に2ヵ所ある場合も含め、横浜には11の水再生センターがある。 1962(昭和37)年の中部に始まり、1984(昭和59)年の北部第2・栄第1で、11すべての水再生センターが稼働した。ここ都筑水再生センターは、1977(昭和52)年に運転を開始した。 訪問するまで思ってもみなかったのだが、都筑区の下水や雨水の大部分は、港北水再生センターで処理されている。 都筑水再生センターは、都筑区のごく一部(佐江戸と川和)と青葉区・緑区・旭区の全域と保土ヶ谷区の一部、計60万人分の汚水を処理している。 勾配を利用した自然流下式をとっているので、都筑区より低い港北に流すのは当然なのだが、都筑区民の下水は都筑区内で処理していると思いこんでいた。
横浜の下水道の普及率は99.7%。全国平均は約71%。当然ながら都市部の普及率は高い。横浜の下水管は、直径20センチの細いものから直径8メートルの太いものまで縦横に張り巡らされ、総延長は11,000キロメートル。横浜からニューヨークまでの距離に相当する。 都筑区には、雨水管と汚水管の2本の管が通っている。雨水は雨水管で、生活排水は汚水管で別々に集めている。これを分流式という。横浜には分流式以外に、雨水も汚水も同じ管1本で集める合流式がある。 新しく開発された地域のほとんどは分流式で、横浜の場合は分流式が4分の3を占める。 分流式では、雨水はそのまま鶴見川に流す。汚水だけを水再生センターで処理し、最終的に鶴見川に放流する。雨水までも処理せねばならない合流式に比べ、分流式にはたくさんのメリットがあるが、建設費が高いなどのデメリットもある。
下水道がほぼ100%整備されたことで、生活環境が飛躍的に改善された。下水道の普及率が20%のころから横浜に住んでいる私には感慨深い。 ○ 以前は早渕川が増水し、床下床上浸水の被害があったが、雨水管の完備で被害が少なくなった。 ○ 水洗トイレが完備され、悪臭や汲み取りを依頼する手間から解放された。 ○ 川や海がきれいになり、釣りや水遊びが安心して出来るようになった。 次は、下水道の普及と河川の水質の変化をグラフ化したもの。 グラフは、環境創造局パンフレットの借用だが、大岡川・帷子川・鶴見川のBODの数値(グラフ左軸)が、下水道の普及率(グラフ右軸)が上がるにつれて下がっている。BODは、微生物が汚れを分解するときに必要な酸素量。水が汚れていれば、数値は高くなる。 ○きれいになった水は、せせらぎに流したり、トイレの洗浄水などに利用する。 水再生センターは、佐江戸町を流れる江川上流部950mと、池辺町から川向町を流れる江川下流部2330mに送水している。 2007年12月にパナソニックモバイルコミュニケーションズを訪問した時に、会社のすぐ側を流れる江川で、ほたるの飼育(左)に取り組んでいることを知った。 江川のせせらぎは、水底や小魚まで見えるほど澄んでいた。不思議に思い聞いたところ、「水再生センターからの水です。処理してあるので臭くもないし汚れていません」と言われた。この時に聞いた話が、今回の訪問につながった。 「佐江戸せせらぎ水辺愛護会」も作られ、ほたるの飼育以外にチューリップの球根を植えるなど周辺住民は美化に努めている。 区内の商業施設「ららぽーと横浜」のトイレ洗浄水は、都筑水再生センターが送っている水。オゾンで処理した水を更に次亜塩素酸で滅菌しているから安心だ。 4年前の平成17(2005)年に、下水処理場から水再生センターに名称を変更した。せせらぎや洗浄水に利用していることからも、下水処理ではなく水再生が相応しい。キャッチフレーズ「おかえりなさい元気な水」にぴったりのネーミングである。
都筑水再生センターには4つの水処理施設があり、そのうち2つは高度処理を行っている。高度処理をすることで、窒素やリンを大幅に取り除くことができる。高度処理は横浜で初めてこの施設に導入された。建設費は2割、運転費は1割増えたが、魚が住めるような河川を取り戻すには効果があった。窒素やリンが増えると赤潮が発生し、魚が死んでしまうからだ。 小山さんの案内で設備を見せてもらった。左写真は、最初沈殿池・反応タンク・最終沈殿池などを上から見たところ。この下の設備で、大きなゴミを取り除いたり、沈んだ汚泥を集めたり、窒素やリンを取り除く処理をしている。 60万人分の汚水処理をしているだけに、敷地は87,000平方メートルと非常に広い。設備も大きい。にもかかわらず、ここで働いている職員はわずか30数名だ。 24時間稼働しているので交代で勤務しているが、それでも小人数ですむのは、設備の自動化のうえに、コンピュータを導入したことで細かい作業が大幅に軽減されたからだ。「コンピュータを使う前は、人の手でやっていたので大変だったですよ」と小山さん。 下水道が流れるのは当たり前、浸水がないのが当たり前の生活を送っていると、縁の下の作業を忘れがちだ。でも水処理施設・水質検査室・中央操作室の仕事を目の当たりにして、こうした人たちに支えられて何気ない日常が保たれていることを痛感した。
「区民に何か要望がありませんか」と最後に聞いてみた。「水以外の液体、ビール・牛乳・みそ汁も汚れのもとになりますが、油はBOD(有機物による汚れの度合いを示す指標)がとても高いんです。再生センターの負担も大きくなりますが、ご家庭の排水パイプや下水管が詰まるので、油は捨てないでください」。 「ベランダに洗濯機を置いている場合は、排水は汚水管ではなく雨水管に流れます。雨水管はそのまま鶴見川に行くので、川の汚れにつながります。洗濯機をベランダで使わないようにして欲しい」。 汚水1立方メートルを処理するのに、平成19年度は144円もかかっている。キャラクターの「かばのだいちゃん」(左)を使って、「油は×」をPRしているが、守っていない人も多いようだ。各人の心がけ次第で、地球がきれいになり、しかも下水道料金が安くなる。 ここには小学生が社会科見学で訪れるが、大人も見学することが出来る。都筑水再生センター(932-2321)に直接問い合わせを。季節のいいときに申し込めば、「佐江戸の森」の自然も楽しめるはずだ。(2008年12月訪問 HARUKO記) |
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