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つづき図書館ファン倶楽部の代表、若杉隆志さん(66歳)に会ってきた。若杉さんが司会や挨拶をしている会合に何度も出ていることもあって、一度話を聞いてみたいと思っていた。 そんなとき今年の4月、都筑図書館が「子どもの読書活動優秀実践図書館」として、文部科学大臣から表彰された。 表彰されたのは図書館であって、図書館ファン倶楽部ではない。だから図書館を取材するのが筋かもしれないが、図書館は、2010年に施設訪問で紹介させてもらった。 優秀図書館として評価された理由のひとつに、「”つづき図書館ファン倶楽部”や”つづきっこ読書応援団”などと協働して、おはなし会の開催などを活発に活動してきた」とあり、ファン倶楽部などの活動も高く評価された。 「私は名前だけの代表です」と謙遜なさったが、そこを一押ししてインタビューにこぎつけた。
左が4月23日に授与された表彰状。この表彰は、子どもの読書活動推進のために、平成14年(2002)度から行われている。若杉さんから話を聞くまでは、国が読書推進を14年も前から取り組んでいるなど全く知らなかった。 平成28年(2016)度は、学校141校、図書館48館、ほか58団体が表彰された。横浜市の図書館が選ばれたのは初めてなので、区民としても素直に嬉しい。 都筑区の児童書貸し出す数は、367,759冊(平成26年度の実績)。横浜市内の図書館の中でいちばん多い。貸し出す総数に占める児童書の割合が、36.7%も占める。この数字は市の図書館の平均29.3%よりはるかに多い。単純に計算すると、1日に1000冊以上の貸し出しがある。 都筑区には子育て世代が多くしかも子どもの教育に熱心な家庭が多いということも考えられるが、図書館や図書館ファン倶楽部やつづきっこ読書応援団が、本好きの子どもたちを育てていると言っても過言ではない。
「図書館ファン倶楽部は16年前に出来ましたね。その頃から関わっていたのですか」 「私が都筑区に越してきたのは8年ほど前です。当時はまだ現役でしたが、リタイア後の居場所のひとつになるかもしれないと、ファン倶楽部の会合に出てみました。初めて顔を出したときは、びっくりしましたよ。メンバーのみなさんの市民力と持っているスキルが高いのです。会員はおよそ25人と少ないですが、図書館を応援したい、読書環境を良くしたいという想いを共有しているなかまです。"無理なく楽しく"というスタンスにも共感しています」 「代表になったのはいつですか」 「2012年に選択定年で退職したころに、前任の伊藤紀久子さんに頼まれて代表になりました。といっても、なんのスキルもない私の役割は時々の挨拶と使い走り、そしてイベントの時のお手伝いといったところです」 「ファン倶楽部と図書館は協働というかたちで、記念事業にも取り組んでいます。協働というのは、図書館の下請け、手伝いではないということですね」 「そうなんです。図書館のスタッフの方々とはウィンウィンの関係を築きたいと願っています。最近では図書館の創立20周年の行事を一緒に企画・実行しました。記念事業は、横浜在住の作家山崎洋子さんの講演会、ドイツ児童文学者の吉原高志氏の講演会、学校図書館ボランティア交流会などいずれも好評でした。特に記念事業最後のライブラリーナイトは、マリンバの演奏と都筑にゆかりのある方々によるビブリオバトルで締めくくることが出来ました。本の楽しさと図書館の多様性・可能性を共有する機会になったと思っています」 20周年記念事業は、2014年11月のプレイベントから2016年3月まで、16もの催しがあった。記念事業の一部を下の写真でごらんいただきたい。
優秀図書館に選ばれた1つの理由は、おはなし会などをひんぱんに開き子供たちと交流していることである。 図書館では、定例おはなし会(毎月第3水曜日・午後3時30分)を開いている。対象は、ひとりでお話が聞ける子。 他に、くまさんのおはなし会(毎月第2木曜日・午前10時と午前10時45分)という親子おはなし会もある。対象は2,3歳児と保護者。これは申込が必要。詳しくは都筑図書館のホームページで。 図書館ファン倶楽部から派生した「つづきっこ読書応援団ーTDO(つどおう)−」は、2011年に誕生。その中の「JiJiBaBa隊」は、子や孫の世代に絵本の魅力を伝えようと活動している。JiJiBaBa隊は、区内のあちこちに出張している。図書館では「絵本を読んであげますよ〜」、北山田地区センターでは「じじばばおはなし会」、センター北ぽっぽでは「ここぽっぽおはなし会」を開き、定期的に絵本の読み聞かせをしている。「わすれない3.11あったか復興広場(センター北駅前)での催し」にも毎年参加して、絵本の楽しさを伝えている。
都筑の子どもたちは、なんて幸せなんだろう。回りに本がある環境、本を読んでもらえる環境がある。この時期に磨かれた感性や知性は、いつか大きく花開くのは間違いない。
「最後に個人的なことをお伺いします。退職後に、図書館に関わりたいと思ったのはなぜですか」 「実は現役の40年間はライブラリアンでした。特に趣味もなかったので図書館に関わる地域活動ならば、リタイア後にゆるやかに地域に軟着陸できるかなという安直な動機でした。 大学卒業後の勤め先は神奈川県庁で、専門職の司書で入庁しました。職場は横浜の紅葉坂にある県立図書館→県立川崎図書館→県立外語短大の図書館→藤沢の教育センターと異動しました」 左は県立図書館閲覧課の親睦会で真鶴半島に行ったときの写真。社会人1年目の初々しい若杉さん。 「腰を落ち着けて仕事したいなと思っていた矢先、法政大学の大原社会問題研究所の求人があり、運よく転職することが出来ました。当初の仕事は、社会主義協会の向坂逸郎(さきさかいつろう)の膨大な資料を整理する事でした。大原研には24年間勤務しましたが、振り返ればあっという間でした」 「大原社会問題研究所ってなんですか」 「元々はクラレの創設者大原孫三郎が、1919年に作った研究所です。今は『法政大学大原社会問題研究所』と名前は変わりました。社会・労働問題の研究所であると同時に、専門図書館としてライブラリー活動をしています」 「大原研にいた時の思い出を聞かせてください」 「図書館・文書館・博物館がいっしょになったようなライブラリーでした。戦前の第1回の普通選挙のポスターなど貴重なポスターもあります。マルクスの自筆サインがある『資本論』もお宝本です。NHKのEテレで『1週間で資本論』という番組が放映された時は、現物を持って収録に立ち合いました。先ごろ亡くなった蜷川幸雄さんの『コースト・オブ・ユートピア』の劇に、『共産党宣言』と『資本論』を提供したこともあります。蜷川さんの舞台で役に立つと思うとわくわくしましたね」 左は、大原研でポスターの保存作業をしている若杉さん。 大原研が所蔵している資料、若杉さんのエッセイ・報告書などなど「若杉隆志のホームページ」で綴っている。「超ユルユルの更新です」とご本人は相変わらず謙遜しているが、近現代史に興味がある方は必見。 インタビューにあたって、若杉さんはたくさんの資料を事前に用意してくれた。その後も「こんな写真が欲しい」という要求に間髪を入れず応えてくれた。この周到な心遣いは、ライブラリアン40年の経験とお人柄から来ているものだろうが、いたく感激してしまった。
全国の公共図書館の一部は、外部委託化の動きもあり転換期を迎えている。本を購入する予算も以前にくらべ、減少している。都筑図書館の書棚にはいつ行っても旬な本が並んでいない。人口が20万人を超える都筑区に、たった1館しかないのも大問題だ。こんな貧相な環境でいいのだろうか。 とはいえ、横浜市には明るいニュースもある。林市長の英断で、横浜市内の小中学校約500校のすべてに学校司書が配置されるようになった。4年前は学校司書がゼロだったことを思うと、感慨深い。司書が配置されたことで、図書室に足を運ぶ児童生徒が増えているそうだ。 平成25(2013)年に「横浜市民の読書活動の推進に関する条例」が制定され、翌年施行された。「読書活動は言葉を学び、感性を磨き、表現力、想像力等を高め、または、豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付ける上で大切なものです」と、条例の基本理念にうたっている。 条例がお題目に終わらないことを祈るばかりだ。 左は教育委員会発行の「横浜市民読書活動推進計画」の表紙。イラストを見ると、条例の対象は幼児から高齢者まで幅広い。 実は2010年に都筑図書館を取材するまでは、図書館は単に本を貸し出すところと思っていた。その後図書館司書の活躍やファン倶楽部の活動を知るにつれ、図書館の可能性と多様性に興味を持つようになった。今回、40年のライブラリアンである若杉さんの話を聞いて、ますますその感が強くなった。 最後にお知らせ。文科省の表彰を祝う会「ブラボー!都筑図書館とじぶんたち!!」を開く。2016年7月19日(火) 18時から20時30分まで 中川駅2分の「シェアリーカフェ」で。会費は2000円(軽食とワンドリンク)。申込と問い合わせは福富洋一郎さんまで(電話は080-5524-6091と045-884-1675)。 (2016年6月訪問 HARUKO記) |