インクル児童園のマネージャー兼先生のザックさんが紹介してくれた、桑原崇さん(38歳)を訪問してきた。

桑原さんは、トインクル児童園のすぐ近くにあるパン工房「June berry」の店長。店は都筑区中川1-17-22 ガーデンプラザ宮台の1階にある。YoppiのHPにJune berryのブログが載っている。

ザックさんがJune berryのパンが大好きということで、家族ぐるみで仲良しだという。ザックさんのリクエストに応えて作ったミートパイは、今も店頭に出ている。

店のドアを開けると、いい匂いが満ちている。それだけで幸せな気分になるが、この匂いに浸りながら、1時間半も話を聞いてきた。

毎日のことだが、取材した日も朝の1時半に起床したという。訪れたのは午後の1時半。起きてから12時間が経っているが、疲れなどまったく感じさせない。最初から最後まで快活に、答えてくれた。


 大学では情報科学を専攻

「パン屋になろうと思ったきっかけは?」とありきたりな質問でインタビューが始まった。「実は僕、理系の大学で情報科学を専攻したんです」と驚くような答えが返ってきた。

「大学時代はラグビーをやり、応援団の団長や体育会の会長もしていました。学ランを着て”オッス”という世界にいたんです。こんなことに夢中になっていたせいか、1科目だけ単位を落として留年しました。たった1科目の単位を取ればいいので、時間はたっぷり。自分を見つめ直す時間は充分ありました」と桑原さん。左写真の前列中央が、大学生時代の桑原さん。体育会の会長だった。

「僕が卒業する頃は、情報科学を専攻したというだけで就職に有利な時代でした。でも自分がやりたいのはITではなくて、他にあるのではないかと考えたのです。自分の手で作りだすことが大好きだったので、パン屋が向いているのではないか」と、就職活動は、情報科学とはまったく無縁のパン屋8社にしぼった。

本気度が認められて、8社とも合格したが、埼玉にある中堅の「サンフレッセ」を選んだ。次に、藤沢の片瀬にある老舗ベーカリーレストランの「パイニイ」に転職。工場長を5年間務めたあとに、自分の店を持つことができた。

「IT業界に未練はありませんか」「いやあまったくないですね。でも大学時代が無駄だとは思ってませんよ。自分の適性を見つけた場所ですから」と語る。


  パン屋の激戦区で開店したかった

奥様ともども出身は神奈川県の藤沢。勤務先も埼玉や藤沢だった。「なぜ縁もゆかりもない都筑に店を開いたのですか」。

「横浜の青葉区と都筑区は、パンとケーキの激戦区なんです。名店がたくさんあります。名店の味に慣れているお客さんに興味がありました。こんなお客さんたちに満足してもらえるパンを作りたかったので、あえて激戦区を選びました」の意気込みに驚いた。自分の腕に自信がなければ、こういう発想はないだろう。

開店は2008年9月17日。訪問したのは開店2周年の行事が終わって間もない時だった。インタビューの間にも、花束を持った家族連れが「2周年おめでとう」と声をかけていた。写真は店内。

店の名前の「June berry」(左)は、ブルーベリーに似ている植物で、花言葉は「おだやかな表情」。スタッフやお客さまが、いつも笑顔でおだやかであって欲しいの願いをこめて、店の名前にした。

名前に違わず、スタッフの応対は実に気持ちがいい。特に何度も電話や店頭で話した奥様・和美さんのさわやかな応対ぶりが、印象に残った。

和美さんは”かずberry”というペンネームで、「June berry通信」を発行している。ちなみにご主人の崇さんは”くまberry”で登場。最近はパソコン通信が多いが、手書きの文字と画が新鮮だ。

角食パン(左)・フランスパン・クロワッサンなどの作り方や美味しい食べ方、発祥の地なども紹介している。


  生地の声が聞こえる!!

June berryは朝の7時に開店する。その時間には、50種類以上の焼きたてパンが出来上がっている。開店に間に合わせるには、2時半には生地づくりを始めなければならない。睡眠は2〜3時間ほどだが、疲れは感じないという。高校時代には水泳で、大学時代にはラグビー鍛えた身体は頑健だ。

生地を作るミキサー 生地を伸ばす器械 パイの成形をしている

「パンの味は、生地の仕込みでほとんど決まります。ミキサーにまかせておくだけではダメなんです。その日の気温・湿度・水の温度で変わってきます。目で見て、耳で聞いてミキサーのスピードをあげるタイミングをはかっています。ぼくは生地の声も聞こえるんですよ。音が変化した瞬間に、止めることがコツです。10秒オーバーしても味が変わっちゃうんです」と、生地づくりの大切さを身振り手振りで説明してくれた。

June berryにはパート勤務も含め12人のスタッフがいる。でもこの生地づくりだけは、桑原さんの仕事だという。「パン屋たるもの 生地作りをおこたるべからず」が店長のモットー。


お客さんと共に

開店当初は30種類ほど作っていたが、客に「こんなパンを作って欲しい」と頼まれてどんどん増え、今は100種類ぐらいに増えた。左は、ザックさんの要望で作ったミートパイ。

「お客さんが美味しかった!と喜んでくれるのが、ぼくの喜びにもなるんです。お客さんと話しているときに、アイディアがわくこともあるし、洋食に限らず中華や和食の店に食べに行って、ヒントをもらうこともあります」と、実に楽しそうだ。

100種類の中から何を選んだら良いか迷う人は、当店のNO1からNO3のメモが貼ってあるパンを買ってみたらどうだろう。訪問した9月のNO1は「冷やしメロンパンの3種。でもこれは9月末で終わり。来年の夏まで待たねばならない。NO2は「メープルラウンド」。NO3は「こまるちゃん」の3種。

人気NO1の冷やしメロンパン。黄色・抹茶・ココアの3種あるが夏だけ販売で9月末で終了。 人気NO2のメープルラウンド。ふわふわの生地にメープルがたっぷり入っている。 人気NO3の「こまるちゃん」常連のお子さんに名前をつけてもらった。


  つぎの訪問は ダブルハピネス ダイニングの伊藤さん

桑原さんが紹介してくれた次の訪問者は、中華料理「ダブルハピネス ダイニング」の店長・伊藤さん。都筑区荏田東、区役所のすぐ近くにある。実はつづき交流ステーションでも「まかない料理」や「おいしいものブログ」でお世話になっている。

桑原さん夫妻がたびたび訪れているうちに親しくなったという。伊藤さんの中華にかける思いや素顔に迫ってみるつもりだ。お楽しみに。 
                            (2010年9月訪問 HARUKO記)

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