小林雅子さん都筑区すみれが丘の「小林クリニック」副院長・小林雅子先生(59歳)を訪問してきた。

近所に住んでいる私は、在宅医療を終えて午後の診療に間に合うようにクリニックの階段を駆け上がる姿を、たびたび目にしている。診察以外にも、地域活動や医師会の行事にも協力的で、「認知症ミニフォーラム」などで講演もしている。

超忙しいことを知っているだけに、インタビューを遠慮していた。でも数年前に認知症サポート医師になったことを知り、認知症の実態と取組について、是が非でも聞きたくなった。

少し遠慮しながら取材を申し込むと、「いいですよ」の笑顔。クリニックでの診察とそれに続く在宅診療後の貴重なプライベートタイムに、たっぷり時間を割いてくださった。



患者さんに寄り添う医者になりたかった 


雅子先生(ほとんどの人は親しみを込めてこう呼んでいる)は、東邦大学医学部で神経内科を専攻した。

「お兄さんもお子さん2人も、お医者さんと聞いています。雅子先生のお父さまもお医者さんだったのでしょうね」

「そうじゃないんですよ。父は神吉俊和というプロ野球の選手。松竹ロビンス(DeNAベイスターズの前身)でキャッチャーでした。兄の名付け親は、小西得郎さん(松竹ロビンス監督で野球解説者)です。面白いでしょう」とクスッと笑った。小西節と言われた名解説を覚えている私は、今は亡き雅子先生のお父さまにお会いしたかった。

「ところで、ご専門の神経内科ですが、ピンときません。どんな病気を診るんでしょうか」

「神経内科は、脳や脊髄や末梢神経や筋肉の病気にかかっている可能性のある方を診察します。具体的には、てんかん、パーキンソン病、筋ジストロフィー、重症筋無力症、末梢神経障害などです」

小林クリニック「ずいぶん難しそうな病気ばかりですが、なぜ専攻したのですか」

「神経内科で扱うのは、治療法が確立されていない難病が多いのです。だから常に患者さんに個別に寄り添う必要があります。私は患者さんに寄り添う医者になりたかったんです」。

「開業医の方が患者さんに寄り添えると思い、早く開業しようと思いました」

左写真はクリニックの正面。


20年前の1995年12月に開業


小林夫妻ご主人の格(いたる)先生とおふたりで小林クリニックを開業したのは、20年前の1995(平成7)年である。格先生の専門は消化器外科。内科と外科を担当している羨ましいカップルドクター(左)だ。

「すみれが丘は新興住宅地ですが、この地を選んだのはなぜでしょう。20年前は医院が少なかったので、開業が嬉しかったことを覚えています」

「自分が生活する場で医者をやりたいと思っていました。

開業時は子どもが小さかったので、職住接近は好都合でした。それに、患者さんに寄り添いたい事と根っこは同じですが、地域にも寄り添いたい気持ちが強かったのです。

在宅医療地域に寄り添う地域医療の一環として在宅医療(左)がある。今は外来患者を1日平均80人程度、他に92人(うち72人は24時間対応)の在宅往診患者を受け持っている。在宅の患者さんは、5キロメートル圏内のすみれが丘、北山田、東山田、川和など。

雅子先生が在宅医療をしているのは、月曜の午後1時から3時、火曜の午後1時から7時、水曜の午後1時から7時、木曜の午前9時から11時、金曜の午後1時から3時、土曜の午後1時から4時半。これ以外の時間は、外来患者を診ている。

「昼食もとれないぐらいハードなスケジュールですね。、疲れませんか」

「とっても充実しているので、疲れなど感じません。夫やいろいろな方が支えてくれているおかげです」


 だれもが認知症になるかもしれない


今年2015年1月に「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」という、なにやら難しい国家戦略が発表された。分かりやすく言うと、「支えあおうよ!寄り添おうよ!みんなで生きていこうよ!」というプランである。認知症の人の意思が尊重され、住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指している。

2025年には、高齢者の5人に1人が認知症になるとの推計が出た。2025年といえば10年後。あっと言う間にやってくる。だれもが認知症になるかもしれない時代は、すぐそこまで来ている。


都筑区統計私たちが住む都筑区も例外ではない。平成27年3月の統計では、高齢者(65歳以上)数は32,158人。高齢化率は15.3%で、横浜市の平均22.8%に比べれば低い方だ。

ただし、要介護認定者数は5,252人で、年々増加している。要介護者のうち半分以上の55.1%が認知症である。横浜市の平均53.9%より認知症率は高い。

認知症患者2892人は、泉区、瀬谷区、旭区についで4位である。

こういう現状をふまえて、認知症サポート医の制度が数年前に発足した。

都筑区の認知症サポート医は、小林雅子先生以外に、深澤りつクリニックの深澤立先生、センター南クリニックの武田茂先生の3人。


支援体制「認知症サポート医と言っても、基本はかかりつけ医です。慢性疾患などで受診しているかかりつけ医が、早い段階で気づかなければなりません。患者の観察や家族の悩みを聞く姿勢も必要です。私たちサポート医は、かかりつけ医のアドバイザーにならなくてはいけない役割があり、連携を深めています。昭和大学横浜市北部病院のような専門機関をご紹介したり、地域包括支援センターとの連携も大事なんです」と、雅子先生の話は熱を帯びてくる。

左は、認知症高齢者支援体制をわかりやすく示した図。いろいろな機関が連携しあって、支援をしていることが分かる。

地域包括支援センターは、保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関。センターには保健師、看護師、ケアマネージャ、社会福祉士がいる。


家族や自分が認知症かなと疑った場合に、どこに相談すればいいか迷う方が多いと思う。

今は、かかりつけ医以外に、気軽に相談できる施設が増えている。都筑区役所の高齢・障害支援課(948-2306)や区内に5か所ある地域包括支援センター。葛が谷(943-5951)、東山田(590-3788)、加賀原(944-4641)、新栄(592-5265)、中川(910-1512)の地域ケアプラザ内にある。

「遠慮しないで、まずは電話をください」と呼びかけている。

カフェ他に、最近区内にオープンした2か所の認知症カフェ(左)は、認知症の人も心配な人も家族も集えるカフェだ。専門の相談員もいるので気軽に顔を出してほしいと呼びかけている。

第1号は「ほほえみ交流カフェ」(ふれあいの丘近くの富士見茶屋で毎月第1火曜の午後1時半から)、 第2号はコツコツ(北山田コミュニティハウスで第3日曜の午後1時半から)。

認知症カフェは、ボランティアスタッフが運営しているが、地域包括支援センターや区役所の高齢・障害支援化も協力している。

認知症になっても住みなれた地域で暮らし続ける体制が、急速に広がっているようだ。


認知症ってどんな病気?


「最近人の名前が出てこないのよ。認知症かしら」などの会話を交わすことがある。でも医学的には認知症と物忘れは違う。認知症は「もともと出来ていたこと、記憶、計算理解、話をする等が徐々にできなくなり、社会生活に支障を来してしまう病気」という定義がある。

「認知症の診断はどのようにするのですか。他の病気のように数値で表しにくいと思うのですが」と聞いてみた。

「血液検査、MRI、SPECTなどの画像診断をします。認知の低下には病気が隠れている場合が多いので、認知症の原因をさぐることから始めます。神経心理学検査や精神科を受診してもらう場合もあります。本人への問診とご家族との面接も必要です」

「そう考えると、認知症の早期発見には外来であれ在宅医療であれ、かかりつけ医の力量が問われますね。定期的に診療しているからこそ、違いが分かります」

「その通りです。かかりつけ医はその方を全人的に見ることができます。認知症の症状を感じたら、それとなくご家族に相談します。ご家族は気づかない場合も多いのです。認めたくないという気持ちもありますし」

認知症原因認知症の原因になる病気は約70種類もあると言われている。でもおおまかにいうと左図のように、アルツハイマー型が約5割3〜4割が脳血管疾患、続いてレビー小体症、ピック病など。

半数を占めるアルツハイマー型認知症は、脳の中に異常なタンパク質が蓄積して脳の機能が低下するもの。原因やメカニズムはよく分かってないので、根本的な治療法はないそうだ。でも病気の進行を遅らせる薬は使われている。

「ところで、アルツハイマーになる危険因子はありますか」

「まず上げられるのが生活習慣病です。特に糖尿病は2倍の確率です。他に過去に頭部に傷を負った方、歯牙喪失の方、趣味がない人、社会参加が少ない人、高齢女性もなりやすいです」

認知症を深く知れば知るほど、正直言って憂鬱になる。なにしろ10年後には「5人に1人が認知症」の時代が来る。でも雅子先生にインタビューしたことで、社会全体で支援体制が出来つつあることを知った。患者に寄り添いたくて医者の道に進んだ雅子先生が、傍で見守ってくれる。これなら、老いも怖くないという気持ちになってきた。

先生には、すでに2人のお孫さんがいる。ご主人のご両親、先生のお母さまも近所に住んでいる。高齢なので1日に1度は顔を出すという。本業だけでも超多忙なのに、この優しさはなんなのだろう。「子どもとして当然の役目です」とサラリとおっしゃるが、そうそう出来ることではない。

「少しはご自分の体を労わってくださいね」と、診療室を後にした。     
                         (2015年5月訪問  HARUKO記)

         
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