TOP 回り地蔵とは 来歴 そして今 アイ❤お地蔵さま
はじめに


「回る」と「地蔵」。どちらもよく知っている言葉だが、合体するとたちどころに意味不明だ。回る? 地蔵が?  いったいどういうこと?

フィギュアスケートのように、お地蔵さまがクルクルとスピンするのか→否。
お地蔵さまの周りを人が回る儀式か何かなのか→ありえそうだが、否。
それならお地蔵さまがどこかを巡回するのか→これがまさかの正解だ。

『日本民俗大辞典』や『緑区史』によれば、回り地蔵とは、巡回先の信者の家に一定期間祀られ、また次の家へと運ばれる信仰習俗、およびその地蔵のことだ。ご利益は幅広いが、主に安産、子育て、延命、厄除けなどで、疫病の流行がきっかけで始められる例が少なくないという。16~17世紀までさかのぼれる習俗だが、広まったのは江戸時代中期。広く全国に認められ、なかでも特に関東各地に多いというが、それは神仏の出開帳が18世紀の江戸を中心に盛んになったことに関係するともいわれている。今風に言うなら、“ご利益のデリバリーというトレンドが、18世紀の江戸を中心に巻き起こった”ということだ。

回り地蔵は都筑郡
※1にも伝わり、現在の都筑区内では池辺町のいくつかの地域で、静かに受け継がれてきた。信じられるだろうか、高台からランドマークタワーやベイブリッジを望み、すぐ近くにはららぽーと横浜。最寄りのJR鴨居駅からは、渋谷へも横浜ベイエリアへも約30分でアクセスできる、そんな場所で、である。ほとんど奇跡を見るようだ。

2013年5月現在、回り地蔵を続けていたのは、滝ヶ谷戸、八所谷戸、藪根(上藪根と下藪根合同)※2の3ヵ所。そのうち滝ヶ谷戸では、2013年1月に講中
※3の解散が決まり、7月には最後の巡行を終え、回り地蔵は「回らない地蔵」となって、新しく建てたお堂に祀られた。

このレポートは、その最後の4カ月間、お地蔵さまに寄せる思いを、滝ヶ谷戸講中の皆さんが話してくださったことをまとめたものである。

※1都筑郡…現在の横浜市都筑区・緑区・青葉区・旭区の全域、港北区・保土ヶ谷区・瀬谷区や川崎市麻生区の一部を含む地域。
※2藪根地区47戸が続ける回り地蔵は、「古くからの村落組織を基礎に行われている注目すべき民俗文化財」と評価され、緑区の白山町(緑区)・港北区の新羽町三谷戸とともに鶴見川流域の回り地蔵として、無形民俗文化財に指定された。泉区下飯田の回り地蔵も同時に指定。
※3講中(こうじゅう)…神仏に詣でたり、祭を執り行ったりする人々の集まり。

 
滝ヶ谷戸の人  滝ヶ谷戸の人