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 東京都市大学メディア情報学部の開設記念行事を兼ねて、デジタルアーカイブの可能性と課題を論じる『大学連携シンポジウム』の第1回が、平成13年の10月27日(日)13:00-17:30、都市大学横浜キャンパス情報基盤センター2階のプレゼンテーションラボで開催されました。
当日は、アーカイブの研究機関の方や学生、都筑区でアーカーブに携わった関係者の方々などが大勢つめかけ、各大学のエリアにおける、いろいろなアーカイブへの取り組みや今後の可能性に耳を傾けておりました。
 
ところで、講演内容をご紹介をする前に

「デジタルアーカイブ(Digital Archive)?」

聞きなれない言葉だなと思われた方もいらっしゃると思います。
一般的には、地域の皆様がお持ちの明治〜昭和にかけての個人アルバム写真に始まり、地域の文化遺産、NHKなど各放送局が記録した日本の過去の情景、風俗の映像や国の重要な記録、歴史的文化財(伝統芸能や伝統技術など)、その他、博物館・美術館・公文書館や図書館の収蔵品などを電子媒体に記録し、データベース化して、様々な角度から資料の検索が行えるようにすることを指します。後世に情報を伝えようとするもので、資料を別な切り口から見ることが可能になり、新たな価値発見への期待と可能性を持たれています。

では当日の講演の内容をご紹介いたします。
第1部  
1.地域映像アーカイブから見えてくる新たな関係性と記憶のあり方
      原田健一教授(Harada Kenichi) 新潟大学人文学部
2.記録と記憶としてのテレビアーカイブの可能性と課題
      小林直毅教授(Kobayashi Naoki) 法政大学社会学部
3.市民参加型デジタルアーカイブの意義
      中村雅子教授(Nakamura Masako) 東京都市大学メディア情報学部
4.オープンデータソリューションの活動とアーカイブ
      上野直樹教授(Ueno Naoki) 東京都市大学メディア情報学部

第2部  
1)問題提起 「保存しなくてはならない社会の行く末−映像アーカイブズを見すえて」
            光岡寿郎講師(Mitsuoka Toshiro) 東京経済大学コミュニケーション学部
2) 地域映像アーカイブ リレーシンポジウム:アーカイブとアーカイブとをつなげる 
             司会 水島久光教授(Mizushima Hisamitsu) 東海大学文学部
             パネリスト 原田健一、小林直毅、中村雅子、上野直樹(敬称略)
 

1.地域映像アーカイブから見えてくる新たな関係性記憶のあり方


原田健一教授
新潟大学人文学部
新潟大学では、幕末から現在までの地域の個人宅、旧視聴覚ライブ
ラリー、博物館、新聞社、放送局などのメディア機関の映像を発掘しデジタル化した「にいがた地域映像アーカイブデータベース」を研究・教育普及目的で公開している。
幕末以来、日本社会に映像メディアが普及して、自らの地域や社会、文化を表象しょうとする村民メディアが成り立っていった。撮影された映像が家族などの身辺にとどまらず、地域のコミュニティの共有物として大いに活用されていた。
アーカイブへの取り組みを大学の研究、分析で終わらせることなく、大学が社会的研究機関として、仲介する役割を持って、社会の制度的なシステムと結びつけることが近い将来必要になると考えている。
 

 

2.記録と記憶としてのテレビアーカイブの可能性と課題 

小林直毅教授 
法政大学社会学部
NHKの番組アーカイブをナショナルなテレビ・アーカイブと捉え、体系的に整備して大学教育に活用するために、NHKアーカイブスと連携して水俣病事件をテーマとするドキュメンタリー番組のアーカイブ「水俣eテキスト」をWeb上に構築し、研究に取り組んでいる。
これは、学生とともに「水俣病事件がTVでどのように描かれ、また、人々はTVを見ることでどのように記憶してきたのか」を検証する作業である。ナショナルな視点でテレビが描き、記録した水俣病事件を、メディアを学ぶ学生が経験することには大きな意義がある。同時に、このようなナショナルなアーカイブの映像が、熊本放送報道ライブラリーの映像や、チッソの企業内組合でありながら患者と家族を支援した新日本窒素労働組合8ミリグループが制作した映像などと相互補完的関係に置かれることも必要である。
 

 

3.市民参加型デジタルアーカイブの意義 

中村雅子教授
東京都市大学
メディア情報学部
市民参加型のデジタルアーカイブでは、市民自身が価値評価し、主体的に資料収集を行っている。これを地域の独自性を社会的に構築する文化実践として捉え、市民参加型のアーカイブの研究・活動支援に取り組んでいる。
都筑区で言えば、地域の歴史やニュータウン開発の経緯など、当時の貴重な資料がたくさんあるが、一般の人々がそれにアクセスするのは難しい。郷土の歴史や開発経緯を次世代に伝えたいと思う人々は多く,それぞれに活動しているが,その実践は個々に行われ,相互の人的,組織的なつながりが十分でなかった。
しかしこの10年ほどの間に、全国各地で、ICT(情報コミュニケーション技術)による地域活性化に関心がある人と、昔からの歴史資料の継承に関心がある人々,異なるコミュニティの間を結びつけるツールとして、デジタルアーカイブが注目されている。今後も、いろいろな街で共通する市民デジタルアーカイブ活動の意義を掘り下げ、地域の歴史や情報活用の可能性に取り組みたい。
 

 

4-1.オープンデータソリューションの活動とアーカイブ 

上野直樹教授
東京都市大学
メディア情報学部
図書館データを中心としたオープンデータの活動を推進している。
図書館にはデータは膨大にあるが、とくに映像については検索のための説明キーワードやタグがなく、利用しにくい状況にある。そこで、横浜市の図書館と連携し、市民参加でデータ化を行い、コンテンツ情報を充実させるとともに、ライセンスをクリアし、二次利用ができるよう、研究と事例づくりに取り組んでいる。
このようにアーカイブが広く活用可能になることで、例えば拡張現実(AR)アプリで昔と今の画像と現在の画像をオーバラップさせ、昔と今を楽しむ事ができるようになる。

*今年12月21日(土)「大さん橋120周年ARまち歩き」と題して、大さん橋から見える今の風景に、ARで昔の絵葉書を重ねて横浜の今と昔を味わう催しが予定されている。

注)拡張現実(Augmented reality,AR)技術とは、Webカメラに映された現実に文字、写真、動画などを重ね合わせて表示する技術を意味していました。しかし、スマートフォンの普及によって、その場で情報をARにアップしたり、それを社会的に共有することが可能になりました。このように今やARはソーシャルメディアそのものとなっています。

4-2.横浜におけるオープンデータの推進 

関口昌幸様
横浜市制作局
政策支援センター
行政情報を公開し、権利を明確にしてオープンデータ化させると共に、民間企業のデータや市民が持っている情報データを同じポータルサイトに融合させ、付加価値を付けたデータを皆で共有、活用することで、地域経済の活性化と結びつけたい。そこにオープンデータ化の意義があると考えている。
オープンデータ化を推進していく上で、地域情報を導き出すための仕組み作りをしていく。これは、行政データを市民と共有するための重要なパイプラインである。「広報よこはま」にせよ、横浜市が発信しているHPにせよ、まだ市民に行政情報が十分に届いていないと考えている。
そこで横浜市では以下のような方針を考えている。
@27年度までにHPをオープンデータ化して、仕組みを抜本的に変えていく。
AICTを使って市民と協力し、客観的なデータを作っていく。
B地域の課題を解決するために、皆で知恵、情報、お金を持ち寄り、育成された人材を投入して、新しい経済の活性化図るためにオープンデータを活用していく。
 
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