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![]() 工場と住民はトラブルが起きやすいとも聞くが、ここは共存のために「東山田準工業地域をまもる会」を作り、良好な関係を保っているようだ。後に触れるが「地域に開かれた工場」を実現している。 スリーハイの名前は、区役所1階の区民ホールで開かれる「メイドインつづき」の展示でよく目にしていた。パシフィコ横浜での「テクニカルショウヨコハマ」でも見たことがある。 訪問したいと思いつつ数年が経ってしまったが、念願がかなったのは9月。社長の男澤さんは、終始笑顔でインタビューに応じてくださった。
![]() 「そもそもスリーハイってなんですか」 「スリーハイは、High Technology(技術) 、High Touch(接客術)、High Fashion(創造術)の3つのハイからとっています。創業した1987年からこの名前です」 「お父さんが創業なさったそうですが、男澤さんは途中入社ですね」 「父親が大病を患ったので、勤めていた会社を辞めて2000年に入りました。サラリーマン時代はコンピュータを使ってプログラム開発をしていたので、スリーハイの古さにはびっくりしましたよ(笑)。でも前の会社の仕事が、今に生きています」 「本社を川崎から都筑区に移したのはなぜですか」 「2004年に移転しました。川崎では住宅街の中にあったので、周りに遠慮していました。でも大きな理由は、いちばんの顧客である某大企業がここと近いからです」
スリーハイの業務はひとことで言うと、工業用ヒーターの製造と販売である。顧客の要望に応じて一から作るオーダーメイドがほとんどだが、よく使われるヒーターは在庫もある。下はその一例。
「これらのヒーターが見えない場所で活躍するのは理屈では分かりますが、私たちが目にする製品で、使っている例があったら教えてください」 「製品は300種類以上ありますから、たくさんの場で使われているんですよ。機内食のプレートの中に入っていて、食事が冷めない工夫をしています。ホテルの洗面台の鏡の裏のヒーターは曇り止めの役目をしています。寒い地方での遊園地のジェットコースターやETCを検知するセンサーや防犯カメラにも使われています。寒冷地ばかりでなく、沖縄からは大きな絵画の修復に使いたいという注文がありました。大量の絵の具を溶かすのだそうです」 「温かさを人にもモノにもお届けしたいと全員が思っています。だからこんな製品に使いたいというお客さまには、たとえ1個の注文でも真剣に応えています。工夫が必要なので、社員のやる気にも繋がるんですよ」 製作中の現場を見せてもらったが、みなさんとても楽しそうに手を動かしている。社長が現れても緊張する様子はない。社長と社員のこの信頼関係は、良い製品を生み出す力にもなっているのだろうなと、いたく感心してしまった。社長がトップダウンで決めることはせず、社員の意見を聞くようにしているのだと、男澤さんは熱く語った。
「中小企業は大企業の下請けというイメージがありますが、スリーハイの場合は、下請けはしていないんですね。ここから近い大企業もお得意さんと聞きましたが、この場合も依頼されての製造ということですか」 「その通りです。実は入社してすぐ酷い目にあったんです。1000万円も取引があった会社が倒産しました。一社依存の下請けだと、又このようなことが起こるかもしれません。今後は、個々のニーズに対応した少量多品種でいこうと方針を変えたのです」
「会社存続の危機は、どのようにして乗り越えたのでしょうか。たくさんの方との取引は実現しましたか」 「ホームページを活用することで実現しました。今では受注の80〜90%は、ホームページからの注文です。大企業の場合もあるし、個人の場合もあります。ホームページの管理維持には年間で約200万円かかっていますが、ホームページ君は、365日24時間働いてくれます。それを思うと安いものです」
「近辺の小中学校ばかりでなく、離れた地域の高校生や大学生や企業の見学を受け入れていますね。仕事の邪魔になりませんか」 「スリーハイの製品は分かりづらいものばかりです。どうやったら会社を知ってもらえるだろうか、工場を開放しようとなったのです。ヒーターを使ってチョコレートを溶かすとかエプロンにヒーターの熱を利用して絵を描くなど、子どもにでも分かることから始めました」 「たしかに本来の仕事に差し障るとの心配もありましたが、社員の心が地域の人によって育まれるんです。知らない人に感謝されるのは、モチベーションにもなります。技術を説明する快感がプライドにもなります」 「それとですね。資源のない日本が生き残るには、手作りのモノ作りこそが大事だと考えています。モノ作りを大切にしないと日本の未来は暗いんじゃないでしょうか」 「そのために、夏休みなどにモノ作りの機会を設けているんですね」 今年も、”スリーハイ弟子入り道場・ヒーターコースターをつくろう”を行いました。子ども達は目を輝かせていましたよ」
8月18日、都筑のまち工場が、子ども達にモノ作りの楽しさを伝える催しに行ってきた。ミナモの特設会場には、大勢の子ども達の順番待ちの列ができた。子ども達はもちろん、教える側の専門家の嬉しそうな顔が印象に残った。こういう取材のたびに思うことは、「都筑区の子どもは幸せだ」 ![]() スリーハイの本社から1分ほど離れた角地に立つおしゃれな「DEN」は、準工業地域にいることを忘れてしまう。 ショールームと工房を備えたカフェだ。ヒーターを製造している場を見ながら、打ち合わせやセミナーの研修も出来る。プレゼンが出来る設備も揃っている。 日本全国にカフェは無数にあるが、工房があるカフェなど他にあるだろうか。 もちろんお茶を飲むだけでもかまわない。メニューはコーヒーはじめ10種以上。キッチンカーが来ることもある。 男澤さんへの取材は引きもきらない。にもかかわらず気持ちよくインタビューに時間を割いてくださった社長には心から感謝したい。別れぎわに「中学生のお子さんは、会社を継いでくれそうですか」と聞いた。 「最近ね。モノ作りに興味を持ち始めたんですよ」と飛び切り嬉しそうな笑顔が返ってきた。 (2018年9月訪問 HARUKO記) |