都筑区桜並木2丁目、平台交差点の近くにあるスズキ株式会社横浜研究室(左下)を、レポーター2人で訪問してきた。

横浜研究室スズキの苗字が多いこともあって、スズキという会社と業務内容が結びつかない人がいるかもしれない。以前の社名が鈴木自動車だったと言えば、だれもが、お分かりだろう。

武士さんと酒井さん横浜研究室の武士さん・酒井さんと、本社広報部の山村さんが、取材に対応してくださった(右)。熱の入った説明と実演に、思わず身を乗り出してしまった。


織機から始まった

鈴木式織機スズキは、鈴木道雄氏が、1909(明治42)年に鈴木式織機製作所を浜松で創業したことに始まる。左写真は1930年ころの鈴木式織機。繊維産業が盛んだった頃は、鈴木織機・豊田織機・遠州織機の3社が、3大織機会社と言われた。

いずれも浜松に近い所ばかりだ。浜松周辺には、モノ作りの風土があるのだろうか。スズキもトヨタも、前身が自動車ではなく、織機の製作だったことは興味深い。ちなみに、今は織機を作っていない。

ダイヤモンドフリー号1952(昭和27)年に、バイクモーター「パワーフリー号」を、翌1953年に「ダイヤモンドフリー号」(左)を発売し、モータリゼーションの先駆けになった。それに伴い、1954(昭和29)年に鈴木自動車工業と社名変更。

現在は、二輪車・四輪車以外に福祉機器(セニアカー・モーターチェアなど)や産業機器(超音波カッターなど)を製作していることもあって、1990(平成2)年にスズキに変更した。


都筑区に研究所を作ったのはなぜ?

本社が静岡県浜松市にあるので、工場のほとんどは静岡県内に立地している。にもかかわらず、本社内にあった技術研究所をこの地に移転、1989(平成元)年に横浜研究所(のちに横浜研究室と変更)を創立した。ニュータウンに進出した会社の中では早い方だ。18年も前のことになる。

「本社から離れた都筑区に研究所を作ったのは、なぜですか」と聞いてみた。「首都圏のほうが、新しい情報が入りやすいし、人材も確保できます。ここは都心まで電車で30分、首都圏の中心ですよね」と、区民には嬉しい答えだった。

「首都圏の大学と共同研究もしています」。具体的には、早稲田大学と燃焼解析、成蹊大学と排気音評価、慶応大学とドライバーモニタリング、横浜国立大学とユーザビリティーについて共同で研究をしている。


最先端の技術開発

横浜研究室には、およそ50名の研究員がいて、大別すると3つの研究を行っている。武士さんは、素人の私たちにもわかるように研究内容を説明してくれた。安全で快適でしかも高品質のクルマを目指している姿勢が、伝わってきた。

1.将来車両の新技術の開発

ASV(Advanced Safety Vehicle)車両とITS(Intelligent Transport Systems)車両の技術
ASV車両ASVは、安全走行のために、知能を持たせた車両のことである。左写真は、無線機とアンテナで情報を通信しあうことで、事故防止ができる四輪車と二輪車。

ITSは、交通事故・渋滞などの解決を目的に構築する新しい交通システム。


FC(Fuel Cell)技術とエネルギー効率向上の技術
燃料電池車両FCは、酸素と水素を使う燃料電池のことで、炭酸ガスを排出しないので、クリーンなエネルギーとして期待されている。燃料電池を搭載した実験車は、すでに区内の路上も走っている。水素ステーションは、近辺にも数カ所ある。

左写真は、JHFC(経産省の「水素・燃料電池実証プロジェクト」)で、走行実験をしているスズキの燃料電池車両。燃料電池自動車の実用化に向けて、国内外の自動車メーカー9社が参加している。

エンジン燃焼解析と燃焼計測の技術
エンジンの性能や排ガス低減のための研究と計測技術の研究。

2.商品性向上技術の開発

車両ユーザビリティ向上技術
車の使い勝手をよくする研究
HMI(Human Machine Interface)のデジタル評価技術
車についているデジタル機器が、どうしたら見やすくなるかなどの研究。
車室内快適性向上技術

3.品質向上技術の開発

レーザー光線画像処理応用計測・検査技術
・新溶接・加工技術
・レーザ応用計測技術


レーザ光線で、車両の部品を精密に接合するための実験(左)。以前は、電気溶接などで接合していた。




ロボットの授業      

博士倶楽部の授業都筑区には、小中学校に出前授業をする「つづき博士倶楽部」という制度がある。区内の事業所が、専門分野について実演を交えた授業を行い、生徒はもちろん先生方にも好評だ。

「地域の企業・施設訪問」では、「6回の崎陽軒」「16回のいであ」「21回の京セラ」で、博士倶楽部の授業を取り上げた。

スズキも毎年出前授業に協力していて、平成18年度は、川和中・中川西中(2回)・茅ヶ崎中で行った。

博士倶楽部の授業出前講座をする企業は、地域の小中学生のために、無料で協力している。毎回書いているが、専門家に接することができる都筑区の子ども達は幸せだ。

たまたま1月の中川西中での「ロボットの話」の授業(左上下)を見学するチャンスがあった。今回の取材でも対応してくださった酒井さんの話は、具体的で分かりやすい。いろいろなロボットの実例、ロボット大賞優秀賞10件の紹介など、子ども達を飽きさせなかった。ご自分が作ったロボットも、コンクールで入賞したことがある。

実物のロボットを見て、生徒たちは目を輝かしていた。「動かしてみたい人いますか」の酒井さんの声に、「ハイ!」と真っ先に応じたのは、女生徒だった。最近は、機械関係に興味を持つ女の子が増えているらしい。

酒井さんは、生徒の礼状をファイルして保存している。子ども達が興味を持ってくれることが、嬉しくてならない様子だ。こんな先生の授業なら、昨今心配されている「理科離れ」も解消するかもしれない。


      メカトロニクスを代表するものがロボット

ロボットというと、自動人形を思い浮かべる方がいるかもしれないが、必ずしもそうではない。広辞苑には「目的とする操作作業を自動的に行うことのできる機械又は装置」とある。機械が同じことを繰り返してやるのに対し、ロボットは、記憶装置(人間で言えば脳)を持ち、外の情報を取り入れる事ができる

ロボット自動車会社がなぜロボットの研究をしているのだろうと、訪問する前は不思議だったが、説明を聞いているうちにわかってきた。メカトロニクスを代表しているのがロボットであり、現在の自動車は、メカトロニクスの塊のようなものなのだ。

今は、メカトロニクスという言葉は当たり前のように使われているが、メカニックスとエレクトロニクスを合成した和製語で、機械工学と電子工学を融合した学問を言う。40年ぐらい前のクルマはメカの塊だったが、今のクルマはメカトロニクスなしには成り立たない。

クリーンなエネルギーを使うクルマ、事故を起こさずにすむクルマの研究など、車社会の未来が明るくなるような話を聞くことができた。訪問したことで、都筑の自慢話が増えてしまった。
(2007年9月訪問 HARUKO記)

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