神奈川訓練センター外観日本盲導犬協会に行ってきた。レポーターは男性1名、女性4名、小学生1名。

本部は東京・渋谷にあるが、訓練は、横浜市港北区新吉田町6001の神奈川訓練センター(左)で行っている。港北区とはいえ、道路をへだてると都筑区、という場所にある。

神奈川訓練センターでは、定期的に見学会を実施している。その日に、一般の方と一緒に2時間の見学。その後で、広報室の坂場さんから、お話をうかがった。



盲導犬施設のパイオニア

子どもと犬の像犬の訓練センターということで、殺風景な施設を想像していたが、丸いアーチと瀟洒なビルが出迎えてくれた。壁数カ所には犬のマーク、玄関入口には子どもと遊ぶ犬の像(左)。中に入る前から、アットホームな雰囲気が伝わってきた。

「日本盲導犬協会」は、1967(昭和42)年に、日本で初めて誕生した盲導犬育成団体である。「神奈川訓練センター」は1997(平成9)年、9年前に開設。「仙台訓練センター」は2001年開設、富士宮市の「日本盲導犬総合センター」は今年2006年10月に竣工したばかりだ。

日本全国には、他に8つの「盲導犬育成指定団体」がある。「日本盲導犬協会」は、9団体の中のパイオニア的存在であり、規模も最大である。


ハーネスをつけるとお仕事モードに変身

盲導犬は、目の不自由な人の安全歩行を助ける犬である。外出時は「盲導犬使用者証」をユーザー(盲導犬と歩く目の不自由な人)が持っていて、ハーネスのポーチに入れている。
ハーネスをつけた盲導犬
盲導犬が身につけている白い胴輪をハーネスという。(右写真は日本盲導犬協会提供)。家でくつろいでいるときは、ハーネスをはずし、のんびりと過ごす。ハーネスが、オンとオフの切換になっている。スーツ姿のビジネスマンが、家に帰れば、ジャージー姿でくつろぐのと似ている。

現在、全国の盲導犬は1000頭に満たない。盲導犬を育成する9団体の合計がわずか1000頭なのだ。希望している人は7,800人もいるので、まだまだ不足している。「日本盲導犬協会」は、2005年に29頭を育成したが、2008年には50頭の育成を目指している。


盲導犬になるのは狭き門

盲導犬に向いている犬は、ラブラドール・レトリーバーという大型犬である。他にゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーとゴールデン・レトリーバーの1代雑種もいる。性格がおだやか、人間に対し寛容、学習能力が高い、健康であることが求められる。

盲導犬としての資質を持った繁殖犬を計画的に交配し、生まれた子犬を訓練しても、盲導犬になるのは3割から4割ぐらい。非常に狭き門なのだ。盲導犬にならなくても、将来が閉ざされたわけではない。盲導犬の仕事を紹介するPR犬として活躍したり、一般家庭にペットして飼われるなど、それぞれに合った道に進む。


盲導犬の一生


 誕生から生後2ヶ月までは、繁殖犬飼育ボランティアの家庭や訓練所で過ごす。同じ母親から生まれた犬は、分かりやすいように、同じイニシャルで始まる名前をつける。私たち見学者に、盲導犬の役割を見せてくれた2頭のPR犬姉妹は、イレーネとイネスという名がついていた。

 2ヶ月から1歳になるまで、パピーウオーカーの家で過ごす。パピーウオーカーの愛情によって、人間好きの犬になるそうだ。都筑区に住む知人は、パピーウオーカーに3回なったことがある。そのうち2頭が盲導犬として活躍中。「すごい確率ですね」と言ったら「僕らの育て方が良かったというわけではないんですよ」と謙遜の答えが返ってきた。

 1歳になると、訓練センターに戻り、さまざまな訓練を、6ヶ月から10ヶ月間ぐらい受ける。盲導犬の仕事は、次の4つ。これらが出来るように訓練する。

体験歩行中○ 左端に沿って歩く。
○ 段差や曲がり角を教える。
○ 障害物を教える。平面上の障害物はもちろん、木の枝など
   高い所の障害物も教える。
○ 近くの目標物に誘導する。

希望者は、体験歩行をすることができる(右)。目隠しをして、PR犬イレーネと曲がり角や段のある場所を歩く体験だ。イレーネは、段差の前でピタッと止まった。

ちなみに、盲導犬は、信号の色は判断できない。ユーザーが耳で判断して、指示を出す。ユーザーは、「赤ですよ」などの声をかけてもらうと助かるそうだ。

訓練の基本は「褒めること」。体罰は加えない。子どもの育て方とまったく同じだが、子どもの場合は、犬のようにはいかないものだ。

ごほうびは、食べ物ではなく、褒め言葉の「good」。日本語で指示を出すと、男女の言葉の違いや方言などで犬が混乱するので、英語で統一している。

訓練の様子訓練を見学させてもらった(右)。訓練士は、大声を出さず、「グッド」「ダウン」など、優しく話しかけている。訓練士も穏やかだが、犬も穏やかだ。訓練センターにいた3時間ほどで、「ワンワン」は一度も聞いてない。犬といえば吠えるものだと思っていたので、びっくりした。

一定期間の訓練を終えた後に、盲導犬に向いているかどうかのチェックをする。 1回目のテストは、担当訓練士によるチェック。2回目のテストは、担当者以外の訓練士が行う。2回目には電車の乗降テストもする。最終的に盲導犬になるのは、3割から4割だ。

ユーザーと犬が寝泊まりする部屋ユーザーと盲導犬が訓練センターに宿泊し、4週間の共同訓練を受ける。犬の世話や指示語の出し方、盲導犬との歩行を訓練する。センター内には、ユーザーと犬が共同で寝泊まりする部屋(右)が用意されている。

その後、個々の家庭でも訓練して、ユーザーと盲導犬だけで生活出来るようにする。8年間、行動を共にするための大事な訓練期間だ。共同訓練終了後も、定期的に訓練士がフォローアップを行う。一緒の布団で寝ないようにするなど、けじめをつける事も大切。食事を与えたり、トイレの世話、月に1〜2回のシャンプーも、ユーザー自身が行う。

10歳を過ぎると引退。盲導犬としてのスタートが2歳なので、約8年間の活動。10歳は人間の年齢だと60歳ぐらいで、まだまだ元気である。引退後は、赤ちゃんの時に過ごしたパピーウオーカーや、引退犬飼育ボランティアの家に、家族の一員として温かく迎えられる。


資金の約95%は寄付と募金

驚いたことに、日本盲導犬協会の資金の約95%は、寄付と募金でまかなっている。公的資金はわずか5%にすぎない。経済大国日本の福祉に対する冷たさを感じるが、今私達ができることで、協力していきたい。

募金箱ちなみに、ユーザーが盲導犬を借りたい場合は、費用はかからない。盲導犬1頭を育成するための費用を考えると、いろいろな人の愛情があればこそのシステムだと思う。

協力の方法は、HPに詳細が載っているが、いろいろある。○賛助会員になる ○金額を自由に決めて寄付をする ○店・病院・オフィスなどに募金箱を設置する(右・訓練センターの玄関に置いてある募金箱) ○遺産を寄付する ○書き損じの葉書や未使用の葉書・切手を送る ○インターネット募金をする ○街頭募金をする ○ボランティアをする。

ボランティアには、繁殖犬飼育ボランティア・パピーウオーカー・引退犬飼育ボランティア以外に、犬舎の清掃、見学会の準備、イベントの手伝い、犬の服の縫製などの作業ボランティアがある。犬舎を見学したが、臭いもなく清潔だった。清掃ボランティアが、毎日掃除をしてくれるからだ。


訓練士になるのも狭き門

日本で初めての「日本盲導犬協会訓練士学校」(右)が、ここ神奈川訓練センターに、2004(平成16)年に開校した。2年間の基礎科と1年間の専修科で修了。2007年3月に初の卒業生が出る。

訓練の実習はもちろん、英語など一般教養や犬の生物学や行動学などを理論的に学んでいる。外国の論文も読まねばならないので英語も重要だ。入学金、授業料は無料。

訓練士を目指している人には願ってもない条件だが、入学の競争は厳しい。来年春の入学定員10人に対し、応募者は196名もあったという。


街で盲導犬を見かけたら

「身体障害者補助犬法」が2003(平成15)年に施行。盲導犬・介助犬・聴導犬の同伴を受け入れることが、義務づけられた。レストラン、スーパー、デパート、ホテル、乗り物でも、無条件に受け入れねばならない。だから盲導犬を街で見かける機会も多くなるだろう。

ハーネスをつけている盲導犬を街で見かけても、次の3つを守って欲しい。
○ 絶対に盲導犬に触らない。
○ 呼んだり、口笛を吹くなど声をかけない。
○ 食べ物をやらない。

ユーザーが困っている様子を見たら、「何かお手伝いをしますか」と聞いたうえで、手助けする。いきなり腕や白杖をつかんだりしない。必要な場合は、「右、左、前、後、約○メートル」など具体的に説明することが大事だ。

盲導犬に関心を持つようになったのは、テレビ番組「盲導犬クイールの一生」が、きっかけだった。でも「神奈川訓練センター」を訪れたことによって、盲導犬やユーザーへの理解が更に深まったような気がする。(2006年11月訪問 HARUKO記)


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