工房の名前のCHOCOLABOには、いろいろな想いがぎっしりつまっている。 〇 ショコラ+ラボラトリー(工房) 〇 健常者と障がい者のコラボレーション 〇 プロフェッショナルと障がい者のコラボレーション この3つの想いからも分かるように、ここは障がい者が主体になってチョコレートやスイーツを作っている工房。 代表理事の伊藤紀幸さんは、福祉事業所立ち上げのきっかけを熱く語ってくださった。そのあとに、「AD(Assort&Delivery)-箱詰めと配送-」や「ショコラ房」に歩いて移動。 丁寧に対応してくださった他の職員(私は名刺を5枚もらった)の方にも感謝しかない。 ちなみにガラスのドアに描かれた木は「みんなの幸せが宿る木」。理事でもある奥さまの伊藤祥子さんの作である。
「私は銀行員でした。銀行の仕事はやりがいもあり楽しかったのですが、30歳が転機でした。子どもが障がいをもって生まれたのです。仕事をしながらも、常に子どものことが頭から離れません。病気がちで入退院を繰り返していましたし」 「ご主人は仕事の間は忘れられますが、奥さまの心労は想像するだけで苦しくなります」 「そうですね。妻にはほんとに感謝してますよ。この事業も妻なしには出来なかったことです。子どもは国立大学付属の養護学校に入れたので、高校までは一安心です。でも入学したときに聞いた『高校を卒業しても月給3000円程度の仕事にしか就けない』という衝撃的な話が私の心を重くしました」 「それでお子さんが働く場を作ろうと思われたのですね」 「わが子がきっかけでしたが、障がい者の置かれている現状を知るにつれ、驚きと焦りと怒りがこみあげてきましてね。なんとかしなければの思いは、ショコラボを作った今でも考えています」 「チョコレート製造は想像しただけでハードルが高そうです。高級チョコレートメーカーもたくさんありますし」 「妻が、パパはチョコレートが好きだからチョコレートを作ろうと言ってくれたのです。今は、25歳になった息子も含め、家族でチョコレートにかかわっています」 「都筑区のサイトなので皆さんに聞いているのですが、どうして都筑に工房を作ったのですか」 「物件は6件あったのですが、この場所は障がい者が通いやすいのです。センター南駅から徒歩5分。ほとんどが遊歩道なので安心して通えるからです」 上の写真は「ショコラ工房」の前で、下の写真は後に紹介するが「ショコラ房」の店内で。「カカオのイラストが気にいっているのでここで撮って」と伊藤さんの要望だった。
「障がい者手帳を持っている人が約45名。スタッフは約25名います。スタッフには元教師とか元一流会社勤務とか面白い経歴を持っている人がたくさんいるんですよ。東工大の博士課程を出た女性もいます。ショコラボの理念に共鳴している方ばかりです」 「障がい者が働いて受け取る額が非常に少ないとのことですが、ショコラボの工賃はいくらですか」 「月給は33,000円で、世間相場の2倍です。神奈川には484の福祉事業所がありますが、ショコラボは規模としては下の方ですが、工賃はトップ5%に入ります。なんとかして月給10万円にしたいんです。障がい者年金が6~7万円ですから、合わせれば自立できます。就職したい人は就職して欲しいんです」 上の会話に出てくる工賃とは、就労支援施設で働く障がい者に支払われる労働の対価である。一般の労働者向けの労働基準法は、障がい者には適用されない。 伊藤さんから話を聞くまで、こんなことも知らなかった。その意味でも筆者には驚くことばかりの訪問だった。 ウェルカムメッセージにも驚いた。上は工房の現場責任者・山下さん作、下はショコラ房のシニアマネージャー・川村さん作である。取材者はハンドルネームが原則なので、名前をぼかしたが、自分の名前を見て嬉しかった。 実はもう1か所訪れたAD(箱詰めと配送をする作業所)でもこのメッセージで迎えてくれたのだが、写真を撮りそこなった。それぞれの場でこんな形で迎えてくれるとは思ってもみなかった。ショコラボ・グループの理念や温かさが伝わってくる。
工房の中を見学させてもらった。見学者に慣れているのか、カメラを構える私がいても熱心に手を動かしている。食べ物を作っていることもありお互いの会話はないが、作業を嫌がっているどころか、楽し気な雰囲気が漂っている。 「どのチョコを作るか分担は決まっているんですか] 「オーダーを聞いて作るので、毎日作るものは違います。でも繁忙期は得意分野を、暇な時期にはいろいろな種類に挑戦してもらっています」
工房から徒歩5分ほどのビルの一室に向かった。ここは「AD(Assort&Delivery)」と言い、工房で作られた商品の箱詰めや発送をしている。訪れた時は作業が終わり掃除をしていたが、伊藤さんが次の質問を投げかけてくれた。 「どうしてショコラボのものは美味しいのかと聞かれたんだけど、みんなはどう思う?」 「手作りだから」「一生懸命作っているから」「材料にこだわっているから」「心を込めているから」「ありそうでなさそうなモノだから」など、さまざまな声が飛び交った。なるほどと思う答えばかりだ。 工房では会話ができなかったが、ここではみんなのイキイキとした元気な声を耳にした。「みんなショコラボが大好きなんですよ。就職して巣立って行った彼らの定着率は95%以上です」の伊藤さんの言葉が実感できた。
「こんなに楽しそうな職場だし、工賃も他より高いとなると、ショコラボで働きたい人は多いでしょうね」 「受け入れの条件はあります。1人で通所できること、不衛生でない人、車いすでない人。車いすは工房が狭いので無理なのです」 「ところでコロナ禍対策はどのようにしていますか」 「4月6日から6月17日まで、思い切って休業にしました。政府の緊急事態宣言より早かったです。障がい者は重篤化するリスクが高いですから。休業が終わってもラッシュを避けての通勤や一日おきの仕事にしています。だから今日もいつもの半分ですよ」 「休業の間、経済的にも厳しかったでしようね。ショコラボに来たがる人をなだめるのも大変だったのではありませんか」 「お金は後でも稼げますが、命をなくしたらおしまいです。だから休業は即断しました。でも休業中はスタッフが朝夕の2回、電話をしました。ユーチューブで社会のルールなどの映像も流して、連絡を取り合っていました」 またまた、ショコラボファンになる話を聞いてしまった。
最後に案内してくれたのは、ADから徒歩3分にあるショップ「ショコラ房」。中村の交差点近くのメイン道路に面している。電話は045-507-8648(ハロー幸せ)。2019年の7月に開店したばかりだが、訪問中も「海老名から月に1度は買いにくる」「1度食べたらやみつき」「子どもにワークショップを経験させたい」など話すショコラボファンがいた。 店内は落ち着いたブラウン系で統一され、しゃれた空間。工房も併設しているので、製造の様子も見学できる。単品でも買えるが、贈答用には好みに応じて箱詰めもしてくれる。シニアマネージャーの川村さんによる専門的なレクチャーやアドバイスも楽しい。 扱っているチョコレート菓子は、世界中から厳選されたカカオ豆やドライフルーツやナッツを使っている。「素材と素材の出会いを大切にしています」と、川村さんは話す。素材と素材の出会い。なんてステキな言葉だろう。 ショコラボの商品は、東京や横浜のデパートやショッピングモール数か所、大阪でも扱っているが、都筑区内では、阪急ショッピングセンターの「相鉄ローゼン」には常時置いてある。横浜市が、ふるさと納税の返礼品としてショコラボのスイーツを採択したという嬉しいニュースも入ってきた。 「ホワイトデーギフトの2番目にランクされたこともありますね」 「それは嬉しかったですよ。障がい者云々ではなく、単に味で数ある菓子類の中から選ばれたんですから。ショコラボの商品はCause Marketing(コーズマーケティング)の商品と言われます。 コーズマーケッティングは、たとえばあるメーカーの靴を1足買うと、その一部が貧しい人に渡るという仕組みです」 ショコラボ房で扱っているものは多岐に渡っている。店に足を運んでくれるに越したことはないが、それまで待てない方は、ごく一部だが写真で見て欲しい。画像の提供は、ショコラボ。 伊藤さんの名刺には点字も印刷されている。企業訪問やひと訪問でたくさんの名刺をいただいたが、点字があるのは初めてだ。この点字付きの名刺に伊藤さんのすべて現れているようで、ほっこりしながら訪問を終えた。「健常者と障がい者の双方が、物心両面の豊かさを感じる会社にしたい」という願いが実現するように、心から祈っている。 (2020年10月訪問 HARUKO記) |