あっとほーむ外観都筑区牛久保西3丁目にあるNPO法人あっとほーむ(左)を、3人で訪問してきた。閑静な住宅街の一画にある一軒家なので、ここが大勢の子ども達の「おうち」だと気づかない人が多いかもしれない。

今年だけでも、朝日新聞やNHKに取り上げられた注目のNPO法人である。代表理事の小栗ショウコさんが、終始にこやかに応対してくださった。

若い女性の起業家として、コミュニティ・ビジネス講座の講師を務めるほどの小栗さんだが、気負いのない自然体の彼女に、私たちレポーターは魅せられてしまった。予定時間をオーバーしても「まだ子ども達が来る時間ではありませんから」と嫌な顔ひとつしない。


 笑顔で楽しく過ごせる時間と場所

小栗さん 「あっとほーむ」は、横浜市放課後児童健全育成事業対象施設(学童保育所)。わかりやすく言うと、働くパパやママの子ども達が、保育園や学校が終わった後、親が帰るまでの時間を過ごす「おうち」である。自分の家と違うところは、さまざまな年齢の地域の仲間がたくさんいることだ。その仲間と、きょうだいのように楽しくくつろげる場を提供している。

小栗さんが「あっとほーむ」を始めたのは10年前。10周年パーティーも10月に開かれる。最初は自宅マンションで、翌年に今の1軒家に移った。「学童保育の場にしたい」と家主に話すと、近隣からの苦情を恐れるからか、なかなか貸してもらえなかったが、今の家主さんが快く貸してくれた。

NPO法人にしたのは2002年。NPO法人になるには、都道府県知事の許可がいる。個人経営がNPO法人になったことで、行政と関わりを持てるようになり、手伝ってくれるスタッフも集まりやすくなったという。

こんな若いときに、独立して仕事をはじめたきっかけを聞いてみた。「私は10年間ほど会社勤めをしていました。総合職で入社したのに、待ち受けていたのは男女の壁。女性が女性の足を引っ張る現実に、嫌気がさして退職したんです」。

何をしようかと模索していた時のご主人のひとこと。「君は独立して仕事をしたほうが向いているんじゃないか」。

「女性の足を引っ張るのは女性ですが、女性を支えられるのも女性です。私は働くママ達の支えになりたいと思いました。私もスタッフも、ママ達に気持ちの余裕ができるよう、さまざまな事をお手伝いしています。職場から直行しないで、たまには寄り道もいいですよと話しています。親に気持ちの余裕が出来れば、笑顔で子どもと向き合えますからね」。


   結婚も子育ても仕事もしたい

「あっとほーむ」は月曜から金曜の12時から夜9時まで、夏休みは朝の8時頃からオープンしている。ときどき、土日に行事をすることもある。

現在登録しているのは80人。80人が「おうち」にいたら、狭いうえにスタッフの目も届かない。1日に預かる人数は15人までと決めている。月に数回しか利用しない人もいるので、バランスがとれているようだ。

「あっとほーむ」は、女性達の「結婚も子育ても仕事もしたいわ」の要求の受け皿になっているので、事業内容は実にきめが細かい。もちろん費用はかかるが、非常に良心的な値段だ。詳細は直接問いあわせて欲しい。

さまざまな要求の受け皿の内容を、具体的に聞いてみた。

★保育園児や幼稚園児を迎えに行くサービスと夜間保育。場合によっては、宿泊保育や訪問保育。夜間保育は9時までなので、事情がある場合は宿泊保育ということになる。

今日の献立★小学生を学校や学童保育所へ迎えに行く。幼児と同じく、夜間・宿泊訪問保育も引き受ける。昨今の物騒な世相を考えると、小学生でも迎えに来てもらえたら、親はどんなにか安心だろう。原則は6年生までだが、中学生も相談に応じている。

「おうち」にいる間のおやつと食事は、スタッフの手作り。食材は自然食品の店から届けてもらっている。訪れた9月16日の献立が、レストランの今日のメニューのように、黒板に書いてあった(左)。

公園に遊びに行くときも、スタッフが付き添うので、勝手に飛び出さないなどの約束事はある。宿題の時間もあるが、スタッフが教える事はしない。どんなことを勉強しているのか、親も知った方がいいとの心遣いだ。テレビの時間は30分と決めている。ひとつしかないテレビで「何を見るか」は、子ども達の話し合いで決める。ゲームは禁止。

★幼児教室
以前は、習い事の子どもの付き添いをしていたが、今はピアノと英語の先生が「あっとほーむ」に通ってきてくれる。「付き添いができないので、何も習わせられない」と嘆く働くママもいるが、ここではそんな願いも叶ってしまうのだ。

★家事代行
夜間保育を利用する家庭には、要望があれば家事の手伝いに行く。子どもを夜間に預けなければならないのは、親が急病だとか切羽詰まった場合が多い。そんなときの家事代行は、利用者にとって「地獄に仏」の心境ではないだろうか。
    
スタッフは小栗さんも含め6名。保育士や幼稚園教諭・小学校教諭の資格を持ち、急な怪我などに備え応急手当も身につけている。子どもと良い関係を作るために、コーチングやNLP(行動心理学)も勉強している。とはいえ、子どものしつけは、家庭の方針を尊重しているので、保育者は縁の下の力持ちという姿勢を崩さない。「こんな人達なら安心して任せられるわ」と思うような人ばかりだ。


 「あっとほーむ」のひとこま

子ども達がどんなふうに「あっとほーむ」で過ごしているか、ごらんいただきたい。日常のひとこま写真を、小栗さんから提供してもらった。

話し合い 大きい子が小さい子の世話を焼く 遊びに興じる子ども達
何を話し合っているのかな?  大きい子が小さい子の世話を焼く  遊びに興じる子ども達


誕生会 表彰式 親子食事会
毎月1回のお誕生会  何を表彰されているのかな?  近くの公園で親子の食事会


  アメリカでホームステイもしてきた! 

子ども達と小栗さんは、今年の7月25日から8月8日までの2週間、アメリカのグリーンズボロ(ワシントンDCの近郊)でホームステイしてきた。この企画は「小学生のうちにホームステイを体験したら、将来、留学やホームステイするときに、自信になるのではないか。世界に目を向ける子供になって欲しいと」という小栗さんの願いで始まった。

よく利用している小学校3年以上10名に声をかけ、4年生1人・3年生3人が参加した。今はアメリカに住んでいて、かつて「あっとほーむ」を利用していたママに、コーディネイトを一任。参加者のパパママも一緒に企画を練ったという。

警察に遊びに行った 消防署見学 乗り継ぎの飛行場
警察に行って本物の手錠をかけてもらった 消防署も見学 乗り換えの飛行場で

9月6日に行われたホームステイ報告会に、私も飛び入り参加させてもらった。英語も話せない、アメリカの習慣も知らない、親と2週間も離れるのは初めて、友だちともちょっとしたことで喧嘩になる。こんな中で、最初は戸惑いながらも、楽しくアメリカ社会に溶け込んでいく様子が、スライドや子どもたちの報告から感じとれた。良い夏を過ごしたなあ!参加者のママたちが異口同音。「行かせてよかった。たくましくなって帰ってきた。学校生活も積極性が増したように思う」

詳しい報告は、小栗さんのブログ「あっとほーむで行くアメリカホームステイツアー2008」をどうそ。


    「あっとほーむ」があって良かった〜  

米本さん利用者のひとり、米本さん(右)から話を聞いた。米本さんは、小学校3年生のひろや君と、4歳の保育園児あかりちゃんのママである。ご主人も積極的に子育てに関わっているそうだが、パパとママの職場は、めったに定時では帰れない。

「上の子が1歳児の8年前からお世話になっています。この子が保育園児のときは、毎日「おうち」に通っていました。ひろやが小学校に上がるころ、名古屋の父が育児を手伝うために、わが家の近くにアパートを借りてくれました。父の協力のおかげで、上の子も下の子も「あっとほーむ」を利用する回数は減りました。

家庭の事情や子どもの成長段階で、育児状況は刻々と変化しますよね。そのときどきで臨機応変にいろいろな利用者のニーズに応えてくれる小栗さんには、ほんとに感謝しています。 仕事も子育てもどちらも納得がいくように最善をつくしたいという思いを 受け止めてくれるんです。今は、あかりのピアノの稽古など、ふたりとも主に金曜日に利用しています」

「あっとほーむのお母さんお父さんとは、普段はお互い忙しくやりとりはあまりありませんが、いざというとき、とても頼りになります。子どもが繋がっているので、親も繋がっている良い関係です」。

ちなみに、ひろや君はアメリカにホームステイした4人のうちのひとり。「小栗さんと子どもたちの関係が日頃から非常に良い関係だと信じているから、アメリカにも行かせました」。米本さんの言葉には、「あっとほーむ」への信頼が溢れていた。

結婚も子育ても仕事もしたい女性は、これから益々増えそうな気がする。政府は少子化対策に力を入れているようだが、「あっとほーむ」のような施設が各地にできることが、ひとつの解決策になると思う。「少子化担当大臣に、この施設を知ってもらえたらなあ」と思いながら後にした。(2008年9月訪問 HARUKO記)

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